企業ヴィジョンを体現する「ミニ・ダヴィンチ」を育成せよ! |
非力ながら私は企業ヴィジョンを作成する仕事を通じて、その提案を行ってきました。
その具体的な主旨は、
「企業ヴィジョンを体現する『ミニ・ダヴィンチ』を育成してください」
「調査研究と知財管理の全社活動を総合した社長直轄の『社内シンクタンク』に再編してください」
この2つのセンテンスに要約されます。
まず「ミニ・ダヴィンチ」という名の知識創発型の人材を、以下の図を用いて説明したいと思います。
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この図において、
技術開発から顧客管理に至る過程の<垂直線連携>が、いわゆるSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の対象です。
次に同じ基幹事業の枠の中で、ハード/システム、サービス/ソリューション/ネットワーキング、ソフト/コンテンツと異なる専門分野を連携する<水平線連携①>があります。
組織の知識創造において、以上の2つの連携だけを重視していると、モノ割り縦割り組織に留まり、<既存パラダイムの決定論的アプローチ>ばかりになってしまう弊害があるということです。
そこで、基幹事業部門の枠を超えて、ハード/システムならハード/システムについてのみ横断的に連携する<水平線連携②>を想定します。ここで、ご注意戴きたいのは、この<水平線連携②>を、技術開発から顧客管理に至るすべての階層で想定するということです。
❶技術開発の階層では、技術連携
❷商品開発の階層では、商品連携*
❸商品化企画デザインの階層では、商品化デザイン連携*
❹商品設計の階層では、設計連携
❺商品生産の階層では、生産連携
❻商品販売の階層では、販売連携*
❼顧客管理の階層では、顧客管理連携*
が図られなければなりません。
(*を基幹商品を横断して統合することでCCM=Consumption消費連鎖管理の戦略を得られる。)
基幹事業部門の枠を超えてコト割横ぐしという条件がつくと、大手メーカーの現状はよくて以上の7階層の一部で連携が図られているのが実際です。事業部横断的とは名ばかりで、基幹事業部門から独立した離れ小島のような組織が、ランダムに商品開発を行ったり、事業部門間の技術的な規準調整を図ったりしている。基幹商品や基幹サービスの名を冠したカンパニー制度が、基幹事業部門の独立性や縄張り性を決定づけているケースが多いと思います。横断的に風穴を明ける組織体制が、全社的なパラダイムを決定づける形で用意されなければ、モノ割り縦割りの弊害が変わらないことは明らかです。
理想的にはこうした受け皿を用意した上で、あるいはこうした受け皿を用意する理想体制を目指して、という話になりますが、
鍵を握る知識創発型の人材の活躍の場として期待されるのが、7つのすべての階層において、基幹事業部門を横断しさらにハード/システム、サービス/ソリューション/ネットワーキング、ソフト/コンテンツの異なる専門分野を横断した<水平面連携>です。
やってみなければ分からない未知未到の仮設を立て実践により検証していく<新規パラダイムの非決定論的アプローチ>は、階層全体の幹部を集めた会議を定期的にすれば自然発生的に提案され実行される、というものではありません。
当たり外れのない、あるいは外れてもみんなの責任なので個人的に責めを負わなくて済むのが<既存パラダイムの決定論的アプローチ>です。それぞれの立場役割で、このアプローチのノルマ達成で手一杯な幹部、そもそも他のアプローチなど関心がない幹部がほとんどだからです。というより、決まったアプローチで与えられたノルマを最大限こなしたそういうタイプの人でない限り、幹部にはなれないのが企業や役所のこれまでの現実でしょう。
そこで<新規パラダイムの非決定論的アプローチ>を仮説し検証し綜合して、新しい企業の成長機会を探索する鍵を握る知識創発型の人材が、各階層を面的に俯瞰し遊撃する「ミニ・ダヴィンチ」なのです。
「ミニ・ダヴィンチ」の人材育成には2つの考え方があります。
1つは、前述の<水平線連携①>と<水平線連携②>の経験を併せ持った人材をその立場役割に据える、というものです。長期的な水平人事異動策として、これを採用すべきでしょう。
しかし、<新規パラダイムの非決定論的アプローチ>の重要性を考えると、そのアプローチの手段も組織ももたない企業にとっては、組織知識創造の課題はすでに待ったナシの状況にあります。
よっていま1つの考え方は、最初からミニ・ダヴィンチに育成することを前提に、新卒の場合は素質が、中途の場合は素養と経験がある人材を採用し、適切な案件やプロジェクトにつかせて、研修や人的支援などにより創発支援をする。基本的には実践実務を通じて叩き上げるという考え方です。私は、こうした考え方を採用人事から導入すべきではないかとご提案しています。
人材マネジメントでは、一般に「エンパワーメント」と「コーディネーション」という2手法が想定されます。
<垂直線連携>の人材、<水平線連携①>の人材、<水平線連携②>の人材、<水平面連携>のミニ・ダヴィンチ、この4者との関係を整理すると、以下の表になります。
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現在の企業や役所の組織批判は、基幹事業部門ごとの<垂直面連携>の<モノクロニック体制>において、おおよそ「コーディネーション」を前提にする議論です。問題になっているビジネスマンのストレス増大の一因もそこにあるのでしょう。
基幹事業部門の垣根を超えた<水平面連携>の<ポリクロニック体制>においては「エンパワーメント」を強化していくことが重要であり、企業組織がこれに向かうべき状況は日に日に深まっています。ミッションやノルマについて責任だけを、権限や裁量なしに与えられるのは、人が大きなストレスに裸で曝されるのに同じです。
企業組織の全体を一気に変えるということはできませんから、まずは7つの階層ごとに、それぞれのテーマにおける<水平面連携>の<ポリクロニック体制>による、「エンパワーメント」を創意工夫してみてはどうでしょうか。
そして企業全体の組織戦略としては、これまで技術開発やマーケティングに限られた研究や調査という活動を、基幹事業部門と専門分野と階層を超えて<垂直水平立体連携>させて「全社的調査研究組織」にする。同様にこれまで技術開発などに偏りがちであった知財管理を「全社的知財管理組織」にする。そして両者あわせて企業全体の知識創造戦略の中枢「社内シンクタンク」に再編する。
私は、この「社内シンクタンク」が全社運動として、各階層における<水平面連携>の<ポリクロニック体制>による「エンパワーメント」の創意工夫と実践を具体的に支援する、という方策を提唱しています。
「ミニ・ダヴィンチ」は「社内シンクタンク」によりそのプランとアクションの裏づけを得ることで、個人的能力を超えた組織的能力となり、各事業部門各階層各分野の現場で、全体最適を目指す企業家観点からの説得力をもつものと考えます。