社員の発想を活性する組織的創造性を求めて(1) |
顧客に提供する経験価値を発想する創造性の必要性
いまや、経験価値マーケティングを全社そして全社員が意識することが不可欠の時代となっています。
私が思うに、本書は「創造性を高める本」である以上に、そうした時代に適応するための創造性とは何かを教えてくれる、つまりは「創造性についての意識を普及する本」であります。
社員個々人の業務や現場で求められる能力が、良く言えば高度に専門化し、悪く言えば微細な歯車化しています。そして、個性的で自由な発想が活かされにくいモノ割り縦割りのモノクロニックな機械論的な企業身体において、現場では目前の数量競争に打ち勝つことが求められ、会社全体ではこのままでは立ち行かなくなるであろう未来を回避するためには、統合的にいかなる経験価値を提供していけば良いのかについてのヴィジョンとそれを達成するシナリオの構築が求められています。
こうした問題と課題、そして両者が簡潔に繋がらない矛盾は、ほとんどの企業がもっていると同時に、それを俊敏に解決解消してきた数少ない企業だけがエクセレントカンパニー状態を維持している。そのことは、もはやエクセレントカンパニーの具体例をあげるまでもなく、誰の目にも明らかでしょう。
それでも、「そんな理想論に向かわなくてもうちはどうにかやっていける筈だ」と考えている経営者がいるとしたら、またそのような経営者の下、割り当てられたモノ割り縦割りのタコ壷で横断的な活動を二の次にする事業部門運営者ばかりだとしたら、ほとんどの社員の本音は近い将来への不安でなければおかしいでしょう。
いったいそうした状況を誰が変えてくれるのか?
結局、自分たちがみんなで、ということは部門横断的に、目前の仕事を理想的に変えていこうとする人格的信頼を土台に協力しあってパラダイム(意識的かつ無意識的な物事の考え方の基本的枠組み)を変えていくしかありません。
生活者でも企業でも顧客にとって経験価値とは、モノ割り縦割りで存在せず、生活やワークやビジネスというコト割り横ぐしなのですから致し方ありません。
この時大切なのが、自分たちの意識を変える、特に「創造性についての意識を普及する」ということだと思います。
本書は、の有効な示唆に富み、しかも具体的な身近な事柄を平易な言葉で語ってくれます。
顧客に対して経験価値を訴求する経験価値マーケティングの主旨は、「商品やサービスを売るのではなくて経験を売る」ということに尽きます。
しかし、商品を購入したりサービスを利用する行為自体が経験なのですから、商品やサービスを売れば消費者の誰もが経験を形成する。では、商品やサービスがコモディティ化してしまう非経験価値マーケティングと、ブランドロイヤルティを形成する経験価値マーケティングとではいったい何が違うのか?
その結論は、もはや生活実感として生活者の誰の目にも明快なことであり、私がコンセプト思考術の研修で繰り返し述べてきたことです。
非経験価値マーケティングが、
<送り手側のモノ提供の論理>のパラダイムにあり、
個々人あるいは個々の企業を画一的な消費者と捉える<コンシューマー狙い>で、
直接的に<万人向け>(大衆およびセグメントされた大衆に過ぎない分衆・小衆)の販売と生産の<量の効率性>を追求し、
質はその枠内で追求される(ex.競合横並びの商品サービスにおける高品質低価格競争)パラダイムにあるのに対して、
経験価値マーケティングは、
<受け手側のコト実現の論理>のパラダイムにあり、
個々人あるいは個々の企業をそれぞれ固有のこだわりをもった個性的な顧客と捉える<カスタマー狙い>で、
<質的特定位置にポジショニングされるこだわり向け>の経験価値、つまり直接的には新しい生活価値、ワークないしビジネス価値という<質の革新>を追求し、<量の効率性>はその枠内で追求される(ex.iTunesオンラインサービスから展開しOEMで生産するiPodハード)パラダイムにある
ということです。
本ブログ では、コンセプト思考術の研修受講者の現業におけるフォローとして、パラダイム転換発想とそのファシリテーション、それを展開する知識創造のための組織再編や業務再編や人材開発を検討提案して参りました。その様々な内容はすべて、経験価値マーケティングのパラダイムについての現実的な理解と現業における実現を目指すものでした。
顧客に提供する経験価値を低下させる販売営業部門の人材と活動
コンセプト思考術の研修の対象は、当初はもっぱら研究開発や商品開発に携わる人々でしたが、徐々に知財戦略や販売営業に携わる人々が増えてきました。
基本的には私自身の関心が、新しい品態・業態(サービス態)・店態(インターフェース態)の戦略的な開発業務にあったことからそのような順序になったと思うのですが、どうも世の中のすべてが例外なく経験価値マーケティングでないとうまくいかない「経験経済」になってきたことがマクロな最大の理由だと思います。
たとえば知財部門は、これまで研究開発や商品開発の活動を後追いで知財化していけばよかったのが、それらを先回りして、あるいはそれらを方向づける形で戦略的に知財を獲得形成していくことが求められるようになりました。このことは、「研究」や「開発」という企業のしようとする組織知識創造の経験を方向づけ、そのための知的経験の場を用意するという意味で「経験価値マーケティング化」に他なりません。
また、販売営業部門は、すべての業界で単なるモノ売りではなくソリューションを売ることが当たり前になって久しいですが、いわゆるセールスエンジニアといった<送り手側のモノ提供の論理>にたった人材と活動は相対的に価値を落としています。
なぜなら、世の中の多様な専門化と高度な情報化が進むにつれて、優良顧客の担当窓口ほど専門知識と独自経験をもち、また一方で裾野的な消費者もインターネットで体系だった知識から重箱の隅をつつくような口コミ情報までを入手できるようになり、セールスエンジニアに頼る必然性が限られてきたからです。
そのことは、販売営業部門みずから、潜在的な顧客が自分で自社の商品サービスの仕様を検討し見積もりできる、セルフカスタマイズのシミュレーションサイトを用意しているところもあり、言われなくても十分理解している筈です。
家電や製造部品、旅行や宿泊など最適なものを最安値で提供するマッチング型のeコマースサイトもあります。
売り込み競争の大局からすれば、販売営業部門の人材と活動は、まず顧客のセルフサービス(自分で自分に売り込む)とマッチングセクター(買い手と売り手の最適組み合わせを斡旋する)の台頭のために、顧客に提供する経験価値を相対的に低下させていると言うしかありません。
本論では、「クリエイティビティ・カンパニー」の示唆深い内容を抽出しつつ、こうした動向過程にある販売営業部門の人材と活動にとって、「何が顧客に提供する経験価値を増大させるのか?」という問題意識をもって、いかなる「創造性についての意識」=パラダイム転換発想が求められ、その発想ファシリテーションにはどのような手立てがあるかを検討していきたいと思います。
検討において、私は特に
何が人と人の交流によってのみ生み出される価値なのか?
何が人の発想によってのみ生み出される価値なのか?
という視座を保とうと思います。
営業マンと窓口先様の人的交流ならでは可能となる最大の争点
何が人と人の交流によってのみ生み出される価値なのか?という視座から考えると、結論は明快です。
営業マンが窓口の方にお願いして、生活やワークあるいはビジネスの現場を実地調査させてもらい、顧客現場の経験価値を革新する発想をしてご提案しその実施を支援することこそが戦略の骨子となります。
何が人の発想によってのみ生み出される価値なのか?という視座から考えると、結論は明快です。
<万人向け>のソリューションや、ある階層や業界の<一般向け>のソリューションは、累積された知識や情報の組み合わせで事足り、会員制コミュニティサイトを提供するなどで精緻に対応できますから、人ならではの発想が求められるものではありません。
人ならではの発想が求められるのは、<個々の顧客現場独自のニーズ>に対する問題発見と問題解決であり、具体的には他人に漏らしたくない秘密への対応策であったり、競争相手には漏らしたくない企業秘密の成長戦略であったりする筈です。
これには二種類あって、企業顧客の場合、
一つは、今窓口先様が分かっていることや今営業担当者が教えてさし上げられるソリューションであり、
いま一つは、今は窓口先様が分かっていないことや今後何かの際に営業担当者が教えることができるであろうソリューションです。
前者は、<今目前の顧客を納得させる手段>であり、
後者は、<今後何があるか分からないが営業担当者と関係を深めておいた方がいいと相手に判断させる手段>で、
両者の違いは微妙ですが、他者に漏らしたくない秘密に関わる場合、決定的に違う性質のものでなければなりません。
両者ともに人間的ないしは人格的な信頼関係がベースとなりますが、
前者が、商品サービスの情報や知識に関わる<思考>と<感覚>に対する説得力が問われる(ex.提案内容が精緻に適正かどうかを重視)のに対して、
後者は、販売営業する企業や人材に関わる<直観>と<感情>に対する説得力が問われる(ex.提案内容がユニークかつ興味深いかどうかを重視)のです。
この点がポイントです。
商品サービスの情報や知識に関わる<思考>と<感覚>に対する説得ならば、前述した顧客自身によるセルフサービスやマッチングサービスやコミュニティサイトの利用で時間と手間を省いて、誰もが簡便気軽に受けることができる世の中です。営業マンが顧客現場を実地調査して独自の気づきから問題発見と問題解決をしなければ、気の利いた窓口先様ならば自分で気づいたり、ちょっとしたヒントを得れば自分でやってしまうでしょう。
確かに、営業マンに高度な専門的知識と精緻な分野別情報を共有させ、セールスフォース携帯端末を駆使して的確かつスマートなプレゼンテーションをさせることで、顧客の<思考>と<感覚>をとらえることは重要です。しかしそれは、原理的には、顧客自身が前述の手段で代替しようと思えばできてしまう。
従って結論として、営業担当者と窓口先様という人と人が交流する以上、人の発想ならでは可能な気づきや心配りへの信頼を得られるかどうかが、販売営業における最大の争点であり競争優位への端緒になるということです。
(特に若手営業マンには、成長著しいあるいは今後成長の見込みある新興企業の顧客現場に積極的にアプローチして、窓口先様とともに新しいワークスタイルや新しいビジネススタイル創出の一翼を担うくらいの心づもりで、新しい気づきと発想を自らに課すといった自己育成が求められます。
このアドバイスに真摯に耳を傾けて忠実に実行し成果を収めた若手有志たちの中から、必ずや歯車的セールスマンから抜きん出たトップセールスマンが育つことでしょう。
私は目下、情報対応特性4タイプによるグループユニットによる販売営業を前提とした「グループユニット人材育成カリキュラム」を構想中です。その中で特にコト実践層でFC、NPが強くて創造性と感動性が顕著な人材をキーマンとするグループユニットが、<カスタマー狙い>の顧客開拓と顧客深耕の新戦力になることを期待しています。この人材育成カリキュラムは、想定カスタマーの顧客現場のフィールド調査と窓口先様をモニターとするコンセプトチェック、営業本部経営幹部に対する営業開拓実践プランの発表を伴うもので、即戦力となるスムーズな現業化を目指しています。)
以下(2)で、以上述べました視座と具体的な課題への観点とから重要と思われる「クリエイティビティ・カンパニー」の示唆深い内容を抽出して検討を進めて参りたいと思います。