オークニー巨大石造神殿についての備忘録 |
スコットランドの北のオークニー諸島のメインランド島で発見された巨大石造神殿は、ストーン・ヘンジよりも500年古い今から5000年前の石器時代のもの。
順序からしてこの遺跡からストーン・ヘンジなどの巨石文化が展開したと考えられるようになった。
◯(空間・地形)
日本列島の本州を押しつぶしたような南北に長いグレートブリテン島の北端のオークニー諸島。
メインランド島の遺跡のある所は、淡水湖(オブ・ハリー湖)と海水湖(オブ・ステネス湖)に挟まれた北西〜東南を軸とする細長い橋状の平らな低地。
この地形は構造的に出雲の神門水海と重なる。
◯(信仰)
橋状の平らな低地の
南端に生の世界(この世)を具現化したストーン・オブ・ステネス(Stones of Stenness)遺跡
北端に死の世界(あの世)を具現化したリング・オブ・ブロッガー(The Ring of Brodgar)遺跡
この世とあの世の中間地点に、ネス・オブ・ブロッガー(Ness of Brodgar ブロッガー岬の意)遺跡が存在。
出雲がそれだとも出雲にその入口があるとされる「根の国(根之堅洲国)」は生の根源とも死の世界ともされるが、いずれにせよ出雲西部がこの世(葦原中津国)とあの世との境界域とされることに、構造的に重なる。
人々は死を迎えると、生の世界からあの世であるリング・オブ・ブロッガーに埋葬される為に、葬送の列が南から北に向かい中間のネス・オブ・ブロッガーを通過したと考えられている。
◯(遺跡・遺物)
遺跡は、十数個の石造建物群を3㍍の高さの石垣の壁が囲むもの。
石造建物は複雑な壁で仕切られた内部に炉が3カ所あるが、平面と出入り口の数などでバリエーションあり。
特別な宗教的な祭祀が行われていたと考えられている。
人形の土器、円筒状で頭部・胴部・脚部に分解される通称「ブロッカー・ボーイ」が出土。ちなみに同形式の身体部位に分解されることを前提とした縄文土器がある。
発掘調査で、建造物を装飾する不思議な幾何学模様の石の彫刻も出土。塗料が製造されていた証拠も初めて見つかった。壁がオレンジ色や赤、黄に塗装されていた痕跡も確認されている。
「1つの小部屋から、さまざまな色の黄土の証拠を発見した。小さな穴が開いた小型の砥石もいくつかあり、それで
顔料をすりつぶしていたに違いない」
「新石器時代の人は化粧や染め物に色を使っていたと
以前から予想されていた。今回の発見は、ヨーロッパ北部で建物の壁も着色されていた最古の証拠だ」
◯(謎)
1000年間存在し最期に、明らかに従来とは異なる形式の大規模な石造建物が作られ、わざわざ遺跡全体ごと破壊されている。
牛500頭の砕かれた骨が出土していて、一度に殺して最期の破壊の祝祭の犠牲にされたと考えられている。
青銅器文明が渡来し、それまでの石器文明とは異なる政治的ないし宗教的な状況となったと仮説されている。
◯(交易)
海路の物流があったことは、建設資材である大量の石材の搬入、犠牲にされた牛500頭の搬入から明らか。
*淡水湖と海水湖に挟まれた細長い橋状の平らな低地は、
海水湖側は、たとえ遠隔地から来た大型船の着岸が困難でも、仲介する小舟の船着き場とすることができる。
淡水湖側は、小舟の入場と離脱を監視制御できる水上交易場とすることができる。
ネス・オブ・ブロッガー前の橋状低地と淡水湖
出雲大社の前身の前の橋状低地と淡水湖
はともに水上交易拠点インフラとなった可能性がある。
*交易品目は祭祀に用いられる祭具や葬送に用いられる装飾具などで、
海上物流の要衝的位置にあったことが重視されるが、
「生の世界と死の世界の境界域(異界との重なり領域)」と看做される地形であることが必須条件として働いたと仮説したい。
その仮説を成立させるには、
交易という経済活動をも祭祀の一環としてとらえる価値観が想定されねばならない。
死んだ人の遺体を各地から遠路はるばる海路で運んで葬送儀礼が行われたとは考えにくい。
各地それぞれの場所で葬送儀礼をしても滞りなく死んだ人を死の世界に送り出せる、そういう呪力のあるモノが求められ交易されたと考えるのが自然である。
人形こけし型の土器「ブロッカーボーイ」はその一つと解釈できる。
*ブロッカー岬の神殿とオブ・ハリー湖の水上交易拠点と
島根半島西部の出雲大社前身と神門水海の水上交易拠点との違いは、
前者があくまで信仰拠点としての命脈を絶つとともに交易拠点も解消したのに対して、
後者は信仰拠点と交易拠点を合わせて発展させてきて、最終的に「国譲り」で信仰拠点を保ち交易拠点を解消した
というところ。
つまりは青銅器文明を拒んだ前者に対して、
たくみに取り込んだ後者
ということになろうか。
「出雲大社(の前身)前に広がった中海が水上国際門前市だった、という仮説の検討予定(主旨備忘)」2014年 05月 26日
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