ユニクロからドラッカーを学び直す(4)企業は社会の道具だ |
第四回 企業は社会の道具だ 発
企業社会が良くなれば学校社会、家庭や地域社会、官僚社会そして国全体が良くなる
中古の自社商品を回収し難民キャンプに送り届ける活動。
派遣切りの中、パートやアルバイトを正社員に登用する試み。
そうしたことを果敢に実行するユニクロ、その柳井会長はこう主張する。
「社会にとって意義がある、社会にとってその企業があった方がいい企業じゃないと生き残れない、というのも事実ですよ。
社会にとってプラスにならないような、むしろマイナスになるような企業はやっぱり要らないんじゃないですか」
これは、
「企業は社会の道具だ」
というドラッカーの言葉に基づいている。
番組は、会社とは何のためにあるのか、その原点が見失われつつある現状を踏まえ、柳井氏が「正しさにこだわる」ことを会社の守るべき価値観としていることをレポートしていく。
ドラッカーは、「給料に関わらず高い知識と意欲をもって働いている数多くの人々を発見」した。
そして、「企業はすべての従業員をいかす組織でなければならない」と考えた。
「従業員の幸せを保障する。
本業を通じて顧客のニーズに応える。
社会貢献を果たす」
それらを「企業の目的」と定義した。
このことを柳井氏は現代社会においてどう捉えているのか。
「企業ができてから企業の力はどんどん大きくなっていて、特にグローバル時代を迎えたらむしろ国の力っていうよりも企業の力の方が大きくなる可能性がある。
だから企業の方の自覚として、よく言われているように、企業というのは『社会の公器』だって思わないといけないんじゃないかなって思います」
企業が社会の公器であるのはすでに常識だが、実際に企業人がどの程度、その自覚を皮膚感覚でもっているかという疑問だ。
たとえば、私のようなフリーランスの場合、一部上場の大手クライアント企業の社会的な構造としての問題性を指摘すると、その社員から「部外者の下請けのくせに生意気だ」という反応をよく受ける。しかし、もし自分の会社も「社会の公器」だという認識を皮膚感覚でもっていたら、そういう反応はない筈だ。
そこを柳井氏は、
「こんな企業いらないなって言われたら、いかにいい商品を売ってても、いかにいいことやってても、社会にとってプラスにならないような、むしろマイナスになるような企業はいらないんじゃないですか」
と言い切る。
社会にとってプラスの構造性か、マイナスの構造性かは、会社の内外問わず評価できる訳で、むしろ部外者の方が利害が絡まない分、客観的に公平に判断でき歯に衣きせず言い切れる。それを、ある種のヒエラルキーを背景にした差別感情で否定してかかるのは余りに情けない。
ユニクロの社会貢献のための部署、CSR部が設けられたのは8年前のことだ。
ここが、中古の自社商品を回収し難民キャンプなどにグローバルに直接送り届ける活動をしている。
企業の社会貢献事業は多様だが、中古の自社商品を使うのは珍しい。
その担当者は、そうした実践を通じて衣服の大切さに改めて気づかされた、という。
「衣料によって人の尊厳が守られるっていう役割もそうですし、あと生活の質っていうんですかね、クオリティ・オブ・ライフという領域、分野においても、非常に衣料の役割というものに気づかされることが多いですね」
この活動の発端について柳井氏はこう振り返る。
「これパートの主婦の方がですね、マクドやミスドは食べてしまえば終わるんだけど、ユニクロの服はいったん買うと残るんでいや困ったもんですねってこと言われたんで、ああみんなそういうふうに思ってるんだなって思ったんですよ。
よく考えたら僕らもユニクロで服買ってるんで、着なくなったユニクロの服が沢山あって、そういったものをやっぱりユニクロで引き取ってもらえたらそれが一番いいんじゃないかと思ったんで、でそれでし始めたんですよ」
船井幸雄氏が、経営やビジネスパーソンには「素直さ」が大切だ、ということを折にふれて仰るが、けっきょく企業の仕組みも人材の知識も、前向きな創造性に繋がるためには「素直さ」という資質が不可欠であることが分かる。
従業員たちも、
「最初そういうことをするって言ったら、また仕事が増えたっていうふうに思ったんですけど、最終的にそういうふうに使われるってことを聞いて、やっぱり自分たちもその一助としてやっていると思ったら意義を感じて、今はそういった気持ちで仕事やってるっていうふうに思います」
長引く不況下、非正規社員の一方的解雇が問題になっている。
こうした中、多くの企業と正反対の方針をとるユニクロの雇用制度が注目を集めている。
2007年に導入された「地域限定正社員制度」だ。
2年間で契約社員やパートのスタッフ5千人を勤務地が限定された正社員にするという制度。これまでに2千人以上が採用された。
柳井氏はその背景をこう説明する。
「地域限定社員というのはですね、契約社員の方とかアルバイト、パートの方、非常に優秀なんだけどアルバイト、パートではいやだ。というのは身分的に安定してないんで、正社員の方がいいっていうことで、われわれよりも条件が良くないのに正社員だからということで、われわれの後から違うとこに就職していく人がけっこういらっしゃったんですよ。
それはあまりにももったいないですよね。
それぞれの都合で、地域は限定して、それでも正社員としてしたいっていう人もけっこういらっしゃるんで、だったらそういう社員制度を作ろうっていうことだったんですよ」
そしてそういう人材制度をつくってどうだったか。
「いや非常に良かったと思います。
定着率高いですし、むしろ普通正社員にすると人件費率が上がるんですよ。下がったんですよ。
やっぱり正社員ということで、さっきの『知識労働者』じゃないですけれど、もっと効率上げようとする方法、それからもっとやっぱり工夫することないかみたいなことをみんなが思って一生懸命仕事していったんじゃないかって思います」
社内外の有能な人材を公平に処遇して「知識労働者」として働く機会を与えた方が、会社も働く人々もみんなハッピーになれる、そういう開放的な楽観主義がユニクロには企業文化としてあるようだ。
これは、かつての日本型経営の企業に当たり前にあったことで、ここ20年で喪失したことでもある。
柳井氏は、派遣社員や派遣切りについてこう主張する。
「僕はやっぱり派遣社員の人とか契約社員の人を切る前に、経営者を切る、管理職から切るといったことからやって、一番弱い立場の契約社員とか派遣社員、これね全部切るんだったら全部切らないと行けないと思います。でも、すべて派遣社員、契約社員、一番弱い人を先ず切るみたいな行為は、経営者としてあるまじき行為だと思いますし。それが契約だからそれでいい、で、そういったことを公言する経営者の人が多いんですけど、それはちょっと違うんじゃないか。
で、そういうことを言うこと自体が、企業とかブランドの価値を損じているんじゃないか、と思います」
「消費者が、そんな企業どうかなって、思うんじゃないですか?
やっぱり一番安易な方法、どんなことでもそうですが、一番安易な方法をやったらいけないと思いますよ。
なんかそれで得したって思うんだけど、けっきょく損してるって思いますよ」
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく。
これは非常に大切なことだと思います。
それを世界的規模でやっていく。
世界中の人々の生活を豊かにする画期的な商品を開発し、
ユニクロを世界のカジュアルウェアのスタンダードにする。
世界中で本当によい服を提供できるグルーバル企業グループになり、
社会に貢献する。
これがわれわれのヴィジョンです。
是非、みなさんと一緒に実現したい、そういふうに思います」
柳井会長は、全世界から集まった幹部社員にこう宣言した。
私は、ユニクロが、ドラッカーが見出した良い日本型経営の本質を現代世界において再構築する、そういう動きに今後も期待したい。
そして同時に多くの日本企業の経営者が、ユニクロのように、
自分たちのプロダクトについて、
「◯◯を変え、常識を変え、世界を変えていく。
これは非常に大切なことだと思います。
それを世界的規模でやっていく。
世界中の人々の生活を豊かにする画期的な商品を開発し、
△△△△△を世界の□□□□□のスタンダードにする。
世界中で本当によい◯◯を提供できるグルーバル企業グループになり、
社会に貢献する。
これがわれわれのヴィジョンです。
是非、みなさんと一緒に実現したい、そういふうに思います」
と胸を張って就労者に言えるようになってもらいたいと思う。
その先に、日本の企業社会の再生がある。
そして、
企業社会が良くなれば学校社会、家庭や地域社会、官僚社会そして国全体が良くなる、
私はそう信じている。
柳井氏は、以上のミッション・ステートメントの発想についてこう解説する。
「まず僕らは本業で、世界をいい方向に持っていきたいなあって思ってるんですよ。
われわれ事業をやっているということは、多数の、特に年齢の今の若い人、しかもそれでできるだけ優秀な人、これと一緒に仕事したいと思うんですよ。
で、優秀な人であればあるほど、やっぱりその仕事が社会的意義がほんとうにあるかどうか、お金がたくさんもらえるってことよりも、その仕事をするってことが決まると思うんですよ。
だからわれわれ、ユニクロのブランドっていうのをね、『ユニクロはあらゆる人がよいカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です』っていうふうに定義しているんですよ。言葉がとても重要で『あらゆる人に』なんですよ。
たとえばお金持ってる人も、お金はあまり持っていない人も。普通の値段の低いものだと、『あらゆる人に』っていうふうにほんとは思ってないよね。
われわれは『あらゆる人に』よいカジュアルを着られるようにするんですよ。
ですから、一つ一つの言葉を、自分たちの使命みたいなことを本当に考えてみないといけないんじゃないかなと思いますけどね」
「貧しい国、そういった所でもどんどん服を作っていこうと思う。
たとえばバングラディシュとかカンボジアだとか、そういった国がもっと発展するように、われわれとしても協力していきたいなあって思ってます。
雇用だし、外貨を手に入れる方法なんですよ。
発展途上国で一番問題は、お金がないこともあるんですけど、一番の問題は仕事がないってことですよね。だから、仕事をつくる、みたいなことが僕は一番の貢献だって思います」
柳井氏は番組シリーズの最後を、
「ドラッカーを実践しましたって、言えるようになりたいなと思います」
とドラッカーから受けた影響を締めくくっていた。
最後に私事で恐縮だが、老老介護が限界にきた高齢の両親を見守る生活を優先して3年になることに触れたい。
少なくともどちらか一人になるまでは、両親と同居する伊豆高原を離れて他者と恊働する仕事ができない。
そうした仕事を再開できるのはいつになるかは分からないし、私はそれが早まることを期待しはしない。
ものは考えようだ。別荘地での両親との同居生活では、むしろ研究に専念できるし、回数は限られこちらから積極的に営業はできないが、依頼された出張の研修講師はできる。
たまたま授かったこんなモラトリアムな時間だが、せめていつでも「ドラッカーを実践する」仕事を再開できる準備を怠るまい、と改めて思った。
幸い時間と経済に余裕のある状況で、だからこそ、ストレスフルで多忙な毎日に追われるビジネスパーソンにはできない研究アプローチというものもある筈だ。
そんな研究に今後も精進し、なるべくすぐに仕事に役立ててもらえる分かりやすい成果を導いていきたいと思う次第だ。