ビジネスマンが天命を知ることの実際と意味 |
出口光著/中経出版刊 発
書店店頭で偶然みかけたこの本をパラパラとやった時に 、第三章のタイトル「嘆きから天命をつかむ」 という言葉が気にかかり購入しました。
今にして想うとそれは、私の人材開発や社内コミュニケーションの促進など部下同僚を動機づけることに関心をもっている知人のほとんどが、そして真摯にあるクリエイティブな課題に取り組んでいるまじめな友人ほど、「嘆き」を口にしていることに思い当たったからだと思います。
本の最後には、診断サイトのパスワードがありました。
去年、偶然近所のブックオフでみかけて買って検討した 「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう」日本経済新聞社刊 も同じように診断サイトとリンクしていて、人材の個性を知るに役立つ本だったのですが、同様に役立つかも知れないと期待しました。これは、調査で有名なギャラップの前会長、副社長の共著です。 この本が、ポジティブな側面から個性の核心を知ろうとするのに対して、今回の本は、一見ネガティブに自分が思っていることから天命を知るということで、対極なのかなと予感しました。
私の予感はあたり、この本は私の期待以上に有意義なものでした。
以下、人材育成にたずさわる方々向けにポイントを紹介します。
それぞれに本書を読みこなして現業現場に活かしてもらえればと思います。
まず、こうした天命本にありがちなかたぐるしさや抽象的な難解さが一切ないことを、お伝えしておきます。
著者は哲学博士、実験行動心理学者にしてタカキューの代表取締役社長の方で、けっしてノウハウ本ではありませんが、深い学究と広い経験にもとづいた本質論を分かり易く展開しているのです。
今年は仕事でいろいろあったとお考えのみなさんならば、年末に向けてこの本を読んで心の棚卸しをすることもできるでしょう。
天命とは、天が「人を一番叩く」ものだそうで、嘆きとはそれによる悲鳴とのことです。
見えざるスピリチュアルな存在として、心と魂は峻別される。
心(コロちゃん)は、ころころその時々でポジティブにもネガティブにも変るやじろべいのようなもの。
魂(タマちゃん)は、そのやじろべいの支点で、その人なりの固定した位置にあり続ける。
天命は誰にでもありそれを知ることは生きる力になる。
それを知る第一歩は、過去を肯定し、過去を統合すること。
過去の肯定とは、前述のやじろべいのような紆余曲折をすべて起こるべくしておこったこととして受け入れる。
過去の統合とは、その人にとってそのような紆余曲折は意味があり、一貫した縦糸を見出すことができるから、しろということ。
ここに、天命を解く鍵が潜んでいて、じつはなんども起こりなんども立ちふさがり、いやだいやだといいつつやりつづけている何かがヒントになる。
その際、心の嘆きを見るのではなく、魂がどのようなテーマで常に心を嘆かせつつもそこにあらしめてきたのか?
こういう着眼は、誰しもに有意義な気づきを与え、足下から人間の捉え方や物事への取り組み方を新たにするのではないでしょうか。
天命に関係して物事を傾聴する4タイプがあるとのことです。
◯達成的傾聴
◯親和的傾聴
◯献身的傾聴
◯評価的傾聴
これを、本人が知り仕事に活かす、あるいは周囲の人のタイプを知りそれを尊重することが有意義です。
なぜなら、一般的な「適材を適所に配置する」という常識的な考えとは逆に、多様な人間の傾聴タイプを活かす形で仕事を工夫させることで、その仕事を天命にしていくことができると考えるからです。本書には、その分かり易い例解もあります。
また、天命との関わり方に4ステップあるとのことです。
第1段階 「逃げる」
第2段階 「嘆く」
第3段階 「畏れる」
第4段階 「志す」
昨今、「目前のノルマをこなすだけで仕事に創意工夫をしてやりがいのあるものにしていくという気概のない社員が増えている」、そのような嘆きをお聴きするのですが、それは社員が第1段階の「逃げる」にあるということです。
これを第2段階に向上させるには、前述の本人の傾聴タイプを活かす仕事の仕方を工夫させることではないでしょうか。
第2段階以降どう向上させるかは、本書に詳しくあるので読んでもらいたいのですが、諦め、怒り、不安、焦りといった様相をもつ嘆きをもって悩む人はじつはやる気のある人なので、本書を読ませたり、読後の意見交換をするためのオフサイトミーティングをしたりして、メンターが個々人と向き合ってその嘆きをアクティブ・リスニングすることがよいでしょう。
中でも、天命を達成できるかできないかに関わらず、また現世的成功や来世的幸福を求めなくても、本人がやめたくてもやりつづけてしまう天命を受け入れ、それに改めて身を投じることを決意し実践することこそが「志す」という意味である、という解説は重要でした。
このような「志」において、ポジティブなこともネガティブなことも受けとめて行くことこそが、真の楽天思考だと気づきました。
第4段階に至るには「志す」ことを踏まえることが不可欠だそうです。
そして、集団や組織においては、互いの「志」を理解しあうことではじめて、異なる傾聴タイプが「気脈を通じ合う」ことができるようになる。
互いの「志」そして天命由来の傾聴タイプを理解したり肯定的に受けとめて尊重できない限り、相互に傾聴タイプの違いを否定しあったままになる、と言います。
これは、私たちが現業現場で、あるいはヴィジョンづくりのプロジェクトや社内コミュニケーション・インフラの活用促進において、いやというほど実感してきたことではないでしょうか。
天命は、暗号として動詞で表されるそうです。
その動詞は、たとえば、
1=聴く(聴くだけ)
2=伝える(聴く+話す)
3=導く(聴く+話す+方向づける)
などと進化する、つまり天命は質的に進化する。
すると、前述の4ステップは、その新たなステージで振り出しに戻るのだそうです。
このことは、平社員→管理職→経営職とワークステージが上がるにつれて、天命を活かす動詞も進化する、ということです。
この天命にかかわる動詞に自分で気づき、それぞれの傾聴タイプなりの現場の工夫をすることが大切になる、著者のこうした考えも私たちの経験則の本質を絶妙についていると思います。
ご興味をもたれた方は、是非、手に取って著者の詳しくかつ具体的な解説を、ご自身の現実において検討しながら読んでください。
きっと、足下から良い成果が生まれてくると思います。
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