自分の「どんぐり」の本領を知り発揮させる (2/2) |
マーカス・バッキンガム&ドナルド・O・クリフトン共著 日本経済新聞社刊 発
著者は、「無意識の反応は才能の源泉を見つける最も有力な手がかりだが、それ以外にも三つの手がかりがある」として、切望、修得の速さ、満足感の三つを上げています。
最強の脳内回路という意味での才能によって発想されたパラダイム転換が、組織にとって熟慮に値する成果である最初の理由は、それが構成員の人格をかけた切望の所産であることです。そして、幾人かのそうした発想が組み合わさって一つの独創になった時、それを実現する手立てはすでに修得されているか驚くべき速さで確立される筈です。そして実現の暁の満足感たるや組織全体に波及しさらなる善循環を生むことにも繋がります。
「切望」について、著者は以下のような意味深長なことを述べています。
「カクテル・パーティやレセプションの魅力に惹かれて広報活動に憧れたり(筆者注=性欲やリビドーという個人的無意識の憑依)、人を支配したいという野心からマネージャーの地位を望んだりすること(筆者注=権力への意志という個人的無意識の憑依)も、ときにはあるかもしれない。しかし、そうしたいわば『偽りの切望』に心を奪われてしまうと、真の切望の声が聞こえなくなってしまう(それが『偽りの切望』であることを知るには、現にそういう仕事に就いている人の話を聞くといい。輝きを失ったバラの日常とはどんなものか、それを実際に教えてもらうのが一番だろう)。その手の偽りのシグナルではなく、自分がほんとうに望むことを追いかけるというのは、強みを築くうえで大いに意味のあることだ」
「修得の速さ」について、著者は以下のようなことを述べています。
「もちろん、一生の職業の方向性を決定づける突然のひらめきは、すべての人に訪れるわけではない。しかし、その技術が販売であれ、プレゼンテーションであれ、建築設計であれ、従業員に発展性のあるフィードバックを行うことであれ、訴状事件摘要書や事業計画書の作成であれ、ホテルの客室の清掃であれ、新聞記事の編集であれ、朝のテレビ番組の手配であれ、どんな分野であれ、必要な技術を修得するのが早ければ、その分野をさらに追求すべきだ。そうすれば、必ず自分の才能(それは一つとは限らない)を特定できるようになる」
このことはパラダイム転換発想における、門外漢の素人の方が長年そのことに従事してきた専門家よりも大胆かつ思いもよらない盲点を見出す「グレート・アマチュアリズム」に関連づけられます。知識や経験がなくてもある種のことに勘がはたらいてしまう、ということが誰しもあるものです。むしろ送り手側の自我意識に囚われていないために、受け手側の期待や満足に直結する内容だったりもします。
「満足感」について、著者は以下のように述べます。
「最強のシナプス結合は、利用することでより活発化する。何かをなし遂げたときに気分がよければ(筆者注:脳内麻薬の分泌に関連)、本人は気づかなくても、それはすでに自らの才能を活かした仕事をしていたということだ。
これではまるで『気分がよければ続けなさい』と言うのと同じくらい、単純きわまりないアドバイスに聞こえるかもしれない。しかし、実はそれほど単純なことではない。なぜなら、さまざまな理由から(多くは精神発達史と関係があるのだろう)人間にはだれにも反社会的なことがしたいという欲求が潜んでいるからだ」
つまり、その人が自我の殻にとじこもった欠乏動機の段階にあれば、他者の失敗にほくそ笑んだり、他者の足をひっぱったりする、そうした狭量な自我意識を超克しなければ真の満足感は得られず、真の満足感を最大のエネルギー源とする才能の本領発揮は期待できないとしています。
「では、どうやって(筆者注:才能にエネルギーを供給する建設的な)満足の源泉を見つければいいか。(中略)
何かをしようとするとき、過去か現在か未来か、どの時制を一番意識しているか考えてみるといい。考えていることがすべて現在に関わることで、『これはいつ終わるのか』と考えているようなら、おそらくそれは才能を活かしていないからだと思う。一方、将来を見据え、『いつまたこれができるか』と考えているようなら、あなたはそれを愉しみ、なんらかの才能を活かしていると考えてほぼまちがいないはずだ」
34の強みを五十音順で挙げると以下のようになります。
アレンジ 運命思考 回復志向 学習欲 活発性 共感性
競争性 規律性 原点志向 公平性 個別化
コミュニケーション
最上志向 自我 自己確信 社交性 収集心 指令性
慎重さ 信念 親密性 成長促進 責任感 戦略性
達成欲 着想 調和性 適応性 内省 分析思考
包含 ポジティブ 未来志向 目標志向
それぞれの詳しい解説とそれら強みの活かし方については本書を読んでください。
また<ストレングス・ファインダー>を試して、ご自身の5つの最強の資質を調べて、その組み合わせによっていかなる問題発見と問題解決をともなうパラダイム転換発想が浮かんでくるのだろうか、という視点から、自らの無意識的な発想に期待してみてください。きっと他の誰でもないあなたならではの有意義な発想が浮かんでくる筈です。
才能が発揮される分野とそうでない分野があり、気になる重要テーマについて苦手意識がある場合もあるでしょう。しかし、その分野へのご自身の向き合い方からが発想です。自分は才能を直接的に活かすある立場にたちその分野を他の人に任せて協力するといった向き合い方にテーマの見出すこともあるでしょう。特に、組織的なテーマの場合、そもそも一人でやれることは限られますから、当然立場と能力そして思いによって自分なりのアプローチが問われる訳です。
本論では、パラダイム転換発想のファシリテーション方法論として、本書の才能論を解説しましたが、本書の人材採用論、人材育成論にも触発される部分が多いので、機会を改めて私なりの採用スクリーニング論、実践的なグループワーク論や営業グループユニット論を検討したいと思います。
前回記事では、ある危機的状況にあるメーカーに対する「象徴的な仕掛けとしての新商品サービス開発の新機軸」のご提案をしました。最後にそれについて本書の才能論から検討を加えたいと思います。
私の発想とその提案は、おそらく私の<コミュニケーション><成長促進><戦略性><着想><未来志向>の5つの資質が生み出したのではないかと勝手に想像しています。
ちなみにこの5つの資質の解説を引用しますと、
以下のようになります。
<コミュニケーション>
:あなたは説明すること、描写すること、
(中略)書くことが好きです。
あなたはアイデアに命を吹き込み、活力を与え、
刺激的で活き活きとしたものにしなければならないと感じます。
そこであなたは、「単なる事実」を「物語」に転換させて、
それを上手に語ります。
→コンセプト思考術の思考フォーマットは
まさにそのための手立てでした。
<成長促進>
:あなたは、ほかの人たちが持つ潜在的な可能性を見抜きます。
実際のところ、潜在的な可能性があなたの見ているすべてで
あることも多いのです。(中略)
あなたが、ほかの人と互いに関わりを持つとき、目標として
いるのは彼らに成功を経験させることです。あなたは彼らを
挑発する方法を探します。
→「象徴的仕掛け」というのはまさにそれでした。
<戦略性>
:戦略性という資質によって、あなたはいろいろなものが乱雑に
ある中から、最終目的に合った最善の道筋を発見することが
できます。これは学習できるスキルではありません。
これは特異な考え方であり、物事に対する特殊な見方です。
<着想>
:あなたは着想に魅力を感じます。では、着想とは何でしょうか?
着想とは、ほとんどの出来事を最もうまく説明できる考え方です。
あなたは複雑に見える表面の下に、なぜ物事はそうなっているか
を説明する、的確で簡潔な考え方を発見するとうれしくなります。
着想とは結びつきです。あなたのような考え方を持つ人は、
いつも結びつきを探しています。見た眼には共通点のない現象が、
なんとなくつながりがありそうだと、あなたは好奇心をかき立て
られるのです。(中略)
あなたはだれでも知っている世の中の事柄を取り上げ、それを
ひっくり返すことに非常に喜びを感じます。
→私の唯一の研究テーマ、
パラダイム転換発想とはそういうことです。
<未来志向>
:「もし------だったら、どんなにすばらしいだろうなぁ」と、
あなたは水平線の向こうを眼を細めて見つめることを愛するタイプ
です。未来はあなたを魅了します。まるで壁に投影された映像の
ように、あなたには、未来に待ち受けているかもしれないものが
こまかいところまで見えます。(中略)
あなたは、未来に何ができるかというビジョンが見え、それを
心に抱きつづける夢想家です。現在があまりにも失望感をもたらし、
周囲の人々があまりにも現実的であることがわかったとき、
あなたは未来のビジョンをたちまち眼のまえに呼び起こします。
それがあなたにエネルギーを与えてくれます。
→私は現状パラダイム内での改善策にあまり興味がありません。
私が関わるまでもなく誰かがやることだと割り切っています。
<ストレンスグ・ファインダー>をまだ試していない段階なので、以上の5つが私の最強の強みベスト5かどうかは多少不確かですが、それ以外29の資質の中にはいくつも私に貢献しているとは言えないと確信できるものがあります。
そこで、もしそうした私の強みでない資質を強みとする人ならばどんな発想が浮かぶのだろうか?と成り代わったつもりで思考実験をしてみました。
たとえば、<回復志向><共感性><活発性><公平性><親密性>などです。
ちなみにこの5つの資質の解説を引用しますと、
以下のようになります。
<回復志向>
:あなたは問題を解決することが大好きです。(中略)
あなたは症状を分析し、何が悪いのかを突き止め、解決策を
見出すという挑戦を愉しみます。(中略)
あなたは物事に再び生命を与えることを愉しんでいるという
ことです。底に潜む要因を明らかにし、その要因を根絶し、
物事を本来あるべき輝かしさへ回復させることをすばらしい
と感じるのです。
<共感性>
:あなたは周囲の人の感情を察することができます。
彼らが感じていることを、まるで自分自身の気持ちであるか
のように感じることができます。本能的に彼らの眼で世の中
を見ることができ、彼らの見方を理解できるのです。
<活発性>
:「いつ始めようか?」。これはあなたの人生で繰り返される
質問です。あなたは動きだしたくてうずうずしています。
分析が有用であるとか、ディベートや討論が貴重な洞察を
生み出す場合があることをあなたは認めるかも知れませんが、
心の奥深くでは、行動だけが有意義であると知っています。
(中略)
あなたは、行動は最良の学習手段であると考えています。
<公平性>
:あなたにとって、バランスはとても大切です。あなたは、
地位とは関係なく人々を平等に扱う必要性を強く信じています。
ですから、あなたはだれか一人が特別扱いされることを望みま
せん。あなたは、このようなことが利己主義や個人主義につな
がると考えています。(中略)
あなたは自分自身を、そんな状況をつくらないための監視役だ
と考えています。
<親密性>
:親密性という資質は、あなたの人間関係に対する姿勢を説明し
ます。簡単に言えば、親密性という資質によって、あなたは
すでに知っている人々とより深い関係を結ぶ方向に引き寄せら
れます。(中略)
あなたは親密であることに心地よさを感じます。いったん最初
の関係ができあがると、あなたは積極的にその関係をさらに
深めようとします。あなたは彼らの感情、目標、不安、夢を
深く理解したいと思っています。そして、彼らにもあなたを
深く理解してもらいたいと思っています。
以上の5つの資質の持ち主になったつもりで発想すると、不思議なことに私自身が社外の人間らしく客観的に経営戦略全体の改革促進策を発想したのとはまったく異なり、社内の仲間意識から出て来るようなリストラ回避策が浮かんできました。これは思考実験においてフォーカシング的に(=5つの資質の組み合わせ自体に主体性を想定して)ロールプレイイングが成立するということです。
具体的には、「会社の経営資源を活かした社会貢献型の新規事業を人数を限った部隊でコンパクトに多数起業する」というアイデアです。
けっして会社の将来を担うような一大事業ではありません。そうではなくて、その仕事にほんとうに情熱をもてる社員が集まって社会的に有意義な商品サービスを世に提供しながら自分たちの食い扶持だけは確保するという事業群です。
事業投資組合を外部資本も受け容れることを前提に組織し、会社本体としての投資を含めた起業コストがリストラコストと同程度で済ませられるのであれば、社員の希望があればこうした選択肢を会社が認めるのも一つの方法ではないでしょうか。
事業内容によっては、会社本体に負担がかからずに、むしろ事業シナジーを期待できる事業分野ともなりましょう。分野的には、ボケ防止の視聴覚学習コミュニケーションなど介護関連とか、ドライブレコーダーなど交通安全関連など、関連業界や公的セクターと手間のかかるコラボレーションをして成果に社会的な誇りを持てるものが良いでしょう。
リストラを最低限に抑えながら、退職者再雇用策に繋がる起業支援をしている会社となれば、企業ブランドの社会貢献イメージも高まるでしょう。これは、まさにリストラ一辺倒のネガティブ組織政策を、社会貢献事業促進というポジティブ組織政策にパラダイム転換する発想に他なりません。
競合他社との高性能低価格化競争という画一的なシェア争いに心を囚われていては決して浮かんでこない発想ではないでしょうか。非営利的色彩の強い分野の場合、競合他社の同志の人々とも協力して一つの会社を立ち上げる業界マターにすることさえあるでしょう。
実際に<回復志向><共感性><活発性><公平性><親密性>を自らの強みとする方々のご感想をうかがいたいところです。もし、我が意を得たりという方がいらしたら是非、具体的な発想とその実現を試みていただきたいと思います。
結論として言えることは、実際にいろいろな最強資質ベスト5の持ち主の方々が、会社の経営危機に際してその強みを活かした発想をするならば、数多くの有意義なパラダイム転換発想が生まれる筈だということです。
そして、社員の有志たちがそれを何らかの手立てで受発信し合えば、共鳴した者同士がより具体的に話を膨らませていき、きっと誰も想像しえなかった成果が生まれるだろうということです。それは会社の一元的な価値観のものではないので、会社主導ではけっして生まれなかった成果を必ず含みます。
一つ一つで直接的に会社全体の起死回生の戦略になるアイデアは少ないかも知れない。
しかし、会社の負担を軽減しつつ社員の幸福を増進する方策など側面的に起死回生の戦略を支援するものは多く、目前の危機感に煽られてそんな方途を想像だにしていないならば、想像以上の成果を期待できる訳です。
本書の才能論から言って一番まずいのは、会社の一元的な価値観のもと、本当の「強み」という資質ではなくて役割分担に相応な知識と技術の持ち主、という限られた人々にすべてを委ねてしまうことであることは論を俟ちません。このことは、構成員の全員が組織においてリーダーシップを発揮すべきである、という理解のファシリテーティブな組織開発論においても常識になっています。
是非、まずお一人おひとりが自らの強みを知る、そして、一度それに何らかのパラダイム転換発想を委ねてみて戴きたいと思います。
やって損することは何一つありません。
むしろいかなる人生の転換点でも、そうした原点から再出発するしかないことを考えれば、もしもの際の気持ちの備えなり、現状における真の自己の確認作業になるのではないでしょうか。