「テレビで見かけたパラダイム転換の文化力発想」メモNo.4 |
「ノーパン自転車」ならぬ「ノーパンタイヤ」
「ノーパン自転車」とは、パンクしない自転車のことだ。
しかしテレビ(”ぶらり途中下車の旅”)で出てきたのは、「自分の自転車のタイアをパンクしないタイヤにする」商品およびサービスだった。
ならば、「ノーパンタイヤ」と言えばいいのにと不思議に思いネットで調べてみると、すでにいろいろな「ノーパンクタイヤ」や「ノーパンク自転車」があり、商標の関係か、あるいは従来のものとの差別化をはかるために、あえて「ノーパン自転車」とネーミングしたようだ。
従来の「ノーパンク自転車」は、私が子供の頃もっていた全体が硬質ゴムでクッション性のない乗り心地が悪いものがまずあり、その後、液体ポリウレタンを注入した「ノーパンクタイヤ」を搭載したものが出て来ていた。
ただし、この注入は工場ベースでするもので、完成品自転車が販売されていた。
ところが、今回テレビに登場したのは、「自分の自転車を特約自転車店に持ち込めば、そこで特殊ジェルを注入してくれる」というものなのだ。
登場した会社は、従来の液体ポリウレタンよりも「乗り心地と注入容易性の勝った特殊ジェル」と「店頭注入器」を開発したのだ。
http://www.masstech.jp/
こう述べると、登場した会社の技術者社長は、従来の液体ポリウレタンを「改善」したように聞こえてしまう。
しかし実際は、そして事の本質は、けっしてそうではなかった。
従来の液体ポリウレタンの「ノーパンクタイヤ」は、それまでの硬質ゴムの「ノーパンクタイヤ」というモノの「改善」であった。
その結果が、自転車タイヤへの工場ベースでの液体ポリウレタン注入だった。
「改善」とは、旧来の<目的>に対して新規の<手段>を講じることである。
一方、今回の特殊ジェルは、「自転車タイヤに空気の代わりに何かを入れられないか?」と発想したのだと思う。
だから、「自転車屋さんで空気を入れてもらうように、自転車を持ち込めばやってもらえる」サービスを重視したのだ。
つまり、新規の<目的>を設定して、それを達成する新規の<手段>を講じるという<革新>をしている。
お見受けしたところ、社長は応用化学の技術者である。
「送り手側観点のモノ発想」でより高性能なタイヤへの注入剤、というモノにばかりこだわっていれば、そこに発想転換の必要はなく、前述のパラダイム転換もなかった。
社長は、意識的にか無意識的にか従来の自転車業界とそのタイヤ業界を俯瞰して、自転車を買って乗っている生活者という最終顧客、それに対応している自転車屋さんという中間顧客の立場から「受け手側観点のコト発想」をしてアイデアを建てているか、建て直している。
結果、
従来の工場ベースで加工する「ノーパンク自転車」や「ノーパンクタイヤ」は、災害用や福祉用の完成品自転車の需要しか開拓できず、グローバルに展開しても経済的に余裕のある所にしか展開できなかったのに対して、
この「ノーパン自転車にする特殊ジェルのタイヤ注入サービス」は、すでに使用されている自転車一般の需要をとらえ、かつ薄利多売の価格設定をすれば自転車利用シェアの高い新興国市場をも開拓していける。
パラダイム転換を伴う「革新」とは、これほどに「改善」とは異なる領域に達する。