経済産業省による「コンテンツ支援ファンド」の使い道に提案 |
いま話題の政府与党の「コンテンツ支援ファンド」政策は、
「江戸幕府が浮世絵の海外販売を応援するような話」
だ。
あの世の蔦屋重三郎がきいたら、きっとそういうだろうヽ(゚◇゚ )ノ
世間知らずのくせに民間の指導だけはしたい役人、
間違いなく彼らの考えそうなことだ。
(http://www.jiji.com/jc/zc?k=200905/2009050400166
政策の概要は↑これを読んでください。)
要点を指摘したい。
◯アニメや映画だけでなくすべての商品(サービスを含む)は、
世界の市場構造の中でそれなりの合理性に基づいた売上シェアや利益を上げている。
そして市場構造は簡単に変わるものではない。
◯日本のコンテンツ産業の海外売上比率が少ないことにも理由があり、
その向上を図るとしたら民間が自助努力ですべきである。
そうしないと本当に産業が力をつけることができない。
ちなみに旧通産省の幹部が、オートバイ・メーカーだったホンダが自動車産業に参入しようとした際にこれをやめさせようと圧力を掛けたことは有名。
欧米の後塵を拝していた日本の自動車産業はトヨタと日産らだけで十分で国として彼らを集中的に支援していくという「選択と集中」が理由だった。
こんな役人の途方も無い勘違いがまかり通るような世の中だったら、その後の「世界のホンダ」はなく、日本の自動車技術が激しい競争という切磋琢磨によって世界をリードする今日はなかった。
通産省から経済産業省に名前は変わったが、自分たちの指導が常に正しく、それによって民間をリードできるという過信は今も変わらない。
今回も業界の求めに応じた訳ではなく、政府与党のポピュリズム選挙対策と歩調を合わせた感が否めない。
◯日本の漫画やアニメや映画が成熟してきた理由は、間違いなく成熟した消費者とそれに即応する関連企業の体制にある。
余計なお金を海外で使って、さらにその配分や支給のためにまたも役人の天下り先とその仕事を海外にまで作ることになる。それは国民(漫画やアニメや映画をみない人々を含む)の血税による。
そうした余計な政策を政府がやる分、国民生活は疲弊して、消費者としての成熟度をむしろ貶めていく。買っていた漫画を借りるようになり、映画館で見ていたものをテレビ放送を待って録画するようになる。制作と鑑賞のタイムラグが伸びることは、日本のコンテンツ産業のコンテンツの質を落していくことにつながる。
浮世絵の時代からそうだが、自由競争とは時間競争でもあったのだ。鑑賞者=消費者の反応に即応するその繰り返しこそが、日本のコンテンツ産業の最大リソースだったという本質を官僚は理解しない。なにせ時間や速度について、単年度予算を消化しさらなる予算獲得を目指す繰り返しばかりをしてきた感性しかないのだ。
◯ビジネスのことは民間の自助努力に任せて、
それに回そうとしているお金は、国内外の鑑賞者=消費者のさらなる成熟化を支援するために使うのが合理的だ。
国内の鑑賞者=消費者のさらなる成熟化が、
コンテンツをさらに高品質化し、
それが海外売上高をこれまで同様に上昇させていく。
(ここは重要だ。海外売上高は民間努力ですでに上昇してきてはいるのだ。
そのことに政府与党は決して言及しない。
ちなみに私の外国籍の姪は日本の映画アニメ会社の欧州支社に勤務して
欧州各国と北米を飛び回っていた。)
◯役人はマーケティングが分かっていない。
分かっているという者の話も、けっきょくは時代遅れの「モノ割り縦割りのマス(万人向け)・マーケティング」を前提している。
しかし漫画やアニメや映画ほど、「このみやこだわりによりセグメントして対応するカスタマー・マーケティング」が不可欠な商品はない。
原作小説や展開ゲームや企画ツアー、フィギュアやケータイストラップ、プラモデル、コスプレやテーマソング、そのイベントなど「コト割り横ぐし」することが市場創造の鍵となる。
つまり、直接的にカスタマーの人数や購買という量をタンジュンに最大化することは不可能であり、熱狂的な作品のマニアや幅広い生活に展開するファンといった鑑賞者の質を深めたり多様化することが中長期的な量の最大化を約束する。
こういうマーケティングの戦略視点は、日本国内の日本人だけでなく、世界各国のマニアやファンにも展開すべきであり、すでに民間ではそうした動きがある。
(政府与党が「コンテンツ支援ファンド」について、
世界大不況のもと最高益を記録した任天堂のゲームには
決して言及しないことも、不自然だ。
別段、漫画やアニメ業界と癒着している訳ではないから、
役人のしたい「コンテンツ支援」主旨の恣意性を露呈したくないため、
ただ都合が悪いから触れないのだろう。)
◎政府が国として応援することができ、しかもその効果も期待できるとしたら、以下のアイデアだと思う。
世界各国のマニアやファンが、
日本国内のコンテンツ産業の実態に触れて、
日本人のコンテンツ・エンジョイ生活をともに体験する日本観光を充実し、
その来日旅費を援助する
(典型的には、
学生の個人希望者の日本体験ツアーや
学校単位で希望者を募る修学旅行のようなもの)
彼らが帰国して「リーディング顧客」となってマニアなりファンなりの多様な鑑賞者=消費者を拡大してくれる。
政府がやろうとしている政策が「送り手側のプッシュを強化する戦略」であるのに対して、
以上のアイデアは、「受け手側のプルを強化する戦略」である。
「7月にも新設される官民共同ファンド「産業革新機構」などから資金を調達する案が有力」
とのことだが、
「観光立国」を目指しているのも経済産業省なのだから、
それとの絡みで効率的かつ効果的な活き金を使ってもらいたいと思う。
政府与党が聴く耳ないなら、
民主党に選挙対策上の対抗案にしてほしい。